IT業界はブラックなのか?

中小企業診断士・ITストラテジストの富田です。今回は、「IT業界はブラックなのか?」について述べたいと思います。前職では採用活動にも関わっており、大学の就職説明会などでたくさんの学生と話す機会がありました。そこで感じたのは、どうやら学生は「IT業界=ブラック」とのイメージを持っているということです。現実はどうなのでしょうか 。

ブラック企業とは

まず、ブラック企業の判断基準は何なのでしょうか。ここにこんな調査結果があります。『株式会社ディスコ 就活生・採用担当者に聞いた「就活ブラック企業」 』

学生がブラック企業だと思う条件の1位は「残業代が支払われない」、続いて2位は「労働条件が過酷である」、3位は「離職率が高い」となっています。

では、IT業界はどうでしょうか?残業代を支払わないのはそもそも法律違反なのですが、現実として一部の残業代が支払われないなど、ある種のサービス残業が常態化している企業もあるかと思います。「裁量労働制」「管理職」「年俸制」などの制度を悪用して残業代を減らそうとする企業もあると聞きます。会社や業種によって状況は異なると思いますが、IT業界の残業時間は多い傾向にあると思います。プロジェクトには期限が設定されており、その期限を守るために残業せざるを得ない場合もあります。トラブルが発生すれば、休日や深夜の対応も必要となります。

これらは、無駄な残業をしているわけではなく、業務遂行のためやむをえず残業をしています。なので、労働条件としては過酷かもしれません。にも関わらず、残業代が支払われないともなれば、ブラック企業だと思う条件の1位と2位を満たしてることになりますね。これでは「IT業界はブラックだ」と言われても仕方がないと思われます。

ブラック企業と呼ばれないために

ブラック企業と呼ばれないためにはどうすればよいでしょうか。

(1)すべての残業代を支払う

まず、すべての残業代を支払いましょう。そもそも、残業代未払いは法律違反です。「すべての残業代を支払うことが会社の利益を圧迫する」と考えている経営者の方もいらっしゃるかもしれませんが、残業しなければ業務を遂行できないのであれば、それは当初の見積もりが甘かったのが原因であり、その分の費用を会社が負担するのは当然のことです。

また、残業代を減らす(原価を減らす)ことで収益向上を図るのではなく、単価を向上させる(利益を増やす)ことで収益向上を図るべきです

(2)労働環境を改善する

その上で、労働環境の改善に努めましょう。それには従業員満足度調査が有効です。従業員に対し、「会社」「仕事」「待遇」「人間関係」「教育」などの各面から会社を評価するアンケート調査を実施し、その結果を分析することで、従業員の不満はどこにあり、対応すべき重要な課題は何であるかを明らかにすることができます。従業員満足度調査の結果をもとに対策を行うことで、おのずと従業員の満足度は向上することでしょう。

様々な研究結果から、従業員満足度と会社の業績には正の相関関係があることが明らかになっています。しかし、「会社の業績がよいから従業員満足度が高いのか」、「従業員満足度が高いから会社の業績がよいのか」の因果関係については諸説あり、卵が先か鶏が先かの議論となっています。ただ少なくとも、従業員を大切にする経営姿勢持つことは、離職率の低下につながり、企業の業績向上につながると考えます。

働き方改革の罠

残業代が支給されるといっても、残業時間が多いままでは過酷な労働条件は解消できません。残業時間を減らすにはどうすればよいでしょうか?

現在、政府主導で「働き方改革」が進められています。働き方改革では3番目に「長時間労働の是正」が挙げられています。「長時間労働の是正」をそのまま企業が進めようとすると「定時退社日の設定」「残業申請」「強制退社」など、無理やり帰らせる方法を取りがちです。これでは、全体の作業が滞ったり、仕事の持ち帰りを誘発したり、下請けに作業を押し付けるなど、別の問題が発生します。根本的な解決にはつながりません。

残業時間の削減には、まずは業務効率化への取り組みが必要です。簡単にできる業務効率化には以下があると思います。

・手作業や繰り返し作業を自動化する

・無駄な会議をなくす

・会議の出席者は最小限とする

・メールの宛先も最小限とする

まずはこういった簡単なところから取り組んでみるのはいかがでしょうか?業務効率化により作業時間が短くなり、それによって自然と残業時間も短くなるような取り組みが重要です。そのためには、従業員の意識改革も必要だと思います。業務効率化への取り組みが評価されるようなインセンティブを与えることも効果的です。

第1回のコラム「SESの限界」で述べさせていただきましたが、IT業界が「人売り」商売であることも、残業時間が長くなる原因の一つだと考えています。取引先から支払われる金額は、月に何人を投入したかによって決まります。当初の想定よりもシステム規模が大きくなったり作業量が増えたりした場合に、投入する人を増やそうとしても、取引先が支払う費用が増加することになるので簡単には増員できません。となると、これまでの人数のまま何とかこなそうとして、作業時間のみが増加することになるのです。

これが「物売り」「サービス売り」商売であれば、何人で作ろうとも販売価格は変わらないので、自社の利益は減少することになりますが、状況に応じて人の追加は可能となります。「人売り」商売からの脱却、それも働き方改革の一つかもしれません。

ブラック企業の見分け方

結局のところ、ブラック企業であるか否かは、企業の経営姿勢によるところが大きいと思います。では、ブラック企業に近づかないためには、どうすればよいでしょうか。独断と偏見でIT業界のブラック企業の見分け方を述べてみます。あくまでも独断と偏見であり、こういった企業がすべてブラック企業というわけではないので、ご参考まで。

・社員数に比較して、新卒採用の人数が多い

→離職率が高いのでとにかく人を集めたい(順調に事業が拡大している可能性もありますが、急激な人の増加は人材育成がおろそかになりやすいです)

・社員一人当たり売上高(売上高を社員数でわったもの)が低い

→安い単価で仕事をしている(付加価値を提供できていない)可能性が高く、その分、従業員に支払える給与も低くなります。

・主要取引先が下請け企業

→2次受け、3次受けの仕事が多いと、会社としての収益性が低く、その分、従業員に支払える給与も低くなります

・自社サービスがなく、人材派遣業がメイン

→人売り商売からの脱却が困難です

とはいっても、会社の内情を外から判断するのは難しいです。外見はよいけど中に入ってみたら違ってた、というのは往々にしてある話です。

では、運悪くブラック企業に入ってしまった場合はどうすればよいでしょうか?私はすぐに転職することをオススメします。ブラック企業に長く勤めてもよいことはありません。従業員を大切にできないような企業は、いずれ衰退します。一度しかない人生なので、働く先は自由に決めるべきです。そのためにも、自己研鑽を怠らないことが重要です。自身の強みが明確であり、そこに市場があるのであれば、転職先を見つけるのに困ることはないでしょう。

また、「転職」ではなく「独立」というのも選択肢の一つです。独立すれば、やりたいことを仕事にできます。私は独立してから人生が大きく変わりました。やりたいことをやって生活できるのは、とても幸せなことだと感じています。

まとめ

現状のIT業界は人不足ですが、これから人手不足はいっそう深刻化していきます。(その後、企業によっては人余りになるかもしれませんが。。。第3回「AI時代に求められるSE像」)


ブラックだと呼ばれるような企業は、人を採用することができなくなり、企業自体の存続が危ぶまれます。従業員を大切にする経営姿勢のもとで健全な経営を行う企業が、生き残れるのではないでしょうか。

Follow me!

    コメントを残す

    メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です

    CAPTCHA