ITエンジニアが持つべき経営者的視点について

Young man college student in checked shirt and hat. Mixed media

こんにちは!中小企業診断士、ITストラテジストの岸本慎介です。 20年以上プログラマーやシステム開発者としてIT業界を内側から、また2014年には中小企業診断士の登録を受け、IT業界を外側から分析する機会を得てきました。 これまで2回の記事では、「IT業界の働き方改革には生産性向上が必要」なこと、そして「現状は営業とエンジニア双方の考え方が、生産性向上を阻んでいる」ということを述べてきました。今回はIT業界が生産性を高めるために必要な考え方について話していきたいと思います。

1.技術と便益

私自身もITエンジニアですから、今回もITエンジニアの視点から話していきます。

ITエンジニアにとって、プログラミング言語やフレームワーク、データベース、デバイス、セキュリティなどの「技術」は必要不可欠なものです。そしてその技術は、日進月歩で新しいものが登場し、常に最新の技術をキャッチアップできていることが、一流のITエンジニアの条件と考える人も少なくないでしょう。

キャッチアップといっても、ただ新しい技術を導入するだけで満足していてはダメで、最新技術を使って何ができるのかを理解し、そして実際に動くサンプルプログラムを作れるのが優れたITエンジニアということになるのでしょう。ですが、私自身は、それだけではITエンジニアとして「働いた」ことにはならないと考えます。

「働く」というからには(別の言い方をすれば、ITエンジニアとして給料を受け取るからには)、プログラムやシステムを構築して顧客に実際に使用してもらい、その対価を得ることが、当然ながら必要です。第1回から述べていますが、「働き方改革」の目的は顧客から得られる対価を多くして付加価値(利益+給料)を高めること、そのためには顧客の「便益」を大きくするプログラムやシステムを提供することが求められます。

では、「技術」と「便益」の2点で、「働き方改革」において重視されるのはどちらでしょうか。もちろんどちらも大事であることは前提です。極端な比較になりますが、下の2人のITエンジニア、PさんとQさんは、どちらがより生産性を高めることができるでしょうか。

●Pさん:最新技術は常にキャッチアップし続けているが、顧客の要望に従うよりも、開発中のシステムに最新技術を組み込んで使ってもらうことを優先している。

●Qさん:最新技術はキャッチアップできていないが、顧客の要望を最優先にシステムを開発している。

おそらく、短期的には顧客満足度が高く、より高い生産性をあげられるのはQさんのほうになるでしょう。もちろん長期的に考えると、最新技術を追うPさんの成長がQさんを追い抜くことも考えられますが、現状では技術の押しつけになる可能性が高いでしょう。

余談として、理想をいうとPさんとQさんのいいところ取りで、「最新技術をキャッチアップしながら、顧客の要望に応じて必要な技術を選択できる」ITエンジニアが求められることになりますが、こんなスーパーエンジニアが出てきたらPさんもQさんも比較になりません(笑)。

私自身の個人的な感覚ではありますが、顧客の便益を大きくすることは、最新技術を追い求めることよりも優先すべきことだと考えています。

2.便益の最大化と経営者的視点

さて、顧客の便益を高める、理想をいえば最大化するには、どのような方法があるでしょうか。

あるシステムを開発する際、ITエンジニアが自らの業務を遂行するために技術を「道具」として使いこなすのと同様に、顧客、とくにエンドユーザーとして実際にシステムを使う人たちは、開発されたシステムが自分の業務を遂行するための「道具」となります。顧客からは「道具」であるシステムに対して要望を出しますが、本当に求められているのはそのシステムを用いて業務を正確に、かつ効率的に遂行することです。

わかりやすい例として、1968年に、マーケティング学者であるセオドア・レビットが著した『マーケティング発想法』には、以下の言葉が紹介されています。

「昨年4分の1インチ・ドリルが100万個売れたが、これは、人々が4分の1インチ・ドリルを欲したからではなく、4分の1インチの穴を欲したからである」。

これは50年経った現在でも通じ、システム開発の話に置き換えると「顧客はあなたのシステムを欲したのではなく、顧客の業務を遂行することを欲した」となるでしょう。つまり、顧客はシステムに対して多くの要望を出してきますし、システム開発のプロセスでいうと「要件定義」として要望をドキュメント化しますが、要件の本質を把握してシステム開発を行うことが、便益の最大化につながるといえます。

顧客の業務を理解し、要件の本質を把握すること。そのためには、「技術だけ」、「開発するシステムだけ」、あるいは「顧客の業務だけ」を見ているのではなく、全体を大所高所から見渡す「俯瞰的視点」が必要になります。さらには顧客が抱える課題(すなわち、理想と現実とのギャップ)を適切に把握する「コンサルタント視点」、その課題をクリアする手段を提供する「マーケティング視点」も必要となるでしょう。これらの視点が、「経営者的視点」と呼ばれるものになります。

3.経営者的視点を獲得するツール

ここからは、経営者的視点を獲得するためのツールを2つ紹介します。

【1】SWOT分析・クロスSWOT分析

分析対象のよいところと悪いところを、対象自身の性質(内部環境)と対象以外のものから対象自身に与える影響(外部環境)ごとに、4つの観点で分類するものです。

●強み(Strengths):内部環境で、プラスの効果をもたらす特徴

●弱み(Weaknesses):内部環境で、マイナスの効果をもたらす特徴

●機会(Opportunities):外部環境で、対象にとってプラスの効果を与える特徴

●脅威(Threats):外部環境で、対象にとってマイナスの効果を与える特徴

これらの頭文字をとって、「SWOT分析」と呼びます。SWOT分析は、対象のメリット・デメリットを客観的に捉えられるので、顧客や顧客の業務だけではなく、開発するシステムや、ITエンジニア自身の分析にも用いることができます。

また、SWOT分析を応用した「クロスSWOT分析」もあります。これは内部環境(強み・弱み)と外部環境(機会・脅威)を1つずつ組み合わせ、取るべき戦略をより具体化させることができます(下図)。

【2】4P分析

4Pとは、製品やサービスを売っていくのに必要な4つの要素(下図)で、英語ではいずれもPが頭文字となることからこのように呼ばれます。

システム開発での要件定義は、主に「製品」のカテゴリーに属するものとなります。4P分析では、「製品=要件定義」にそれ以外のカテゴリーの要素を組み合わせ、顧客満足度を高めるシステムのあり方を考えることができます。なお、プロモーションはシステム開発では考えにくい部分ですが、商談時のアピールポイントやエンドユーザーへの教育なども含んだ、より広い内容と考えてよいでしょう

今回は「働き方改革」には俯瞰的視点、コンサルタント視点、マーケティング視点といった「経営者的視点」が必要であることと、経営者的視点の獲得に使えるツールを紹介しました。次回は全体のまとめとして、「働き方改革」の本質に迫っていきたいと思います。

Follow me!

    コメントを残す

    メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です

    CAPTCHA