「SESの限界」から抜け出すには

中小企業診断士・ITストラテジストの富田です。前回は「SESの限界」というテーマで、ソフトウェア開発の業界でよくみられるSES契約の問題点について述べさせていただきました。

この記事の中で、SES契約の問題点として、以下の3つを挙げました。

(1)短期的な経営志向

(2)低利益の悪循環

(3)計画的な人材育成が困難

今回は、その解決策について提案したいと思います。

SESと売上の関係

まず、SESとしての売上は以下の式で表すことができます。

前回で述べたように、SESは人売りのビジネスモデルで、何人をいくらで売ったのかが売上となります。そのため、SESで売上を向上するには、「売る人数」を増やすか、「一人当たりの単価」を増やす必要があります。

「売る人数」を増やそうとした場合、社員の数を増やすか、外注を活用するか、が考えられます。新卒採用により社員の数を増やそうとしても、一人前に育成するには数年かかります。固定費も増加して利益を圧迫します。中途採用により社員の数を増やそうとしても、中小企業ではなかなか人が集まらないのが現状かと思います。外注を活用しようとしても、慢性的なIT人材不足の現状では、よい技術者はなかなか見つかりません。仮によい技術者が見つかったとしても、単価が高く利益を減少させることになります。

「一人当たりの単価」を増やそうとしても、既存顧客に対して価格交渉するのは現実的に困難である場合が多いです。「SESの限界」はこのあたりにあると考えます。

SESの限界から抜け出すためには

「SESの限界」から抜け出すために、企業はどうすればよいでしょうか?売る人数を増やすことも既存顧客の単価を増やすことも難しい以上、より高付加価値のサービスを、より高いお金を払ってくれる新規顧客に提供するしかありません。

私は以下を提案します。

1.危機感を持つ

まず、低単価のSESに依存したビジネスモデルには限界があるという、強い危機感を持ちましょう。危機感がないと変わることはできません。現状のIT業界は人不足の状態で、目先の仕事は常にあります。とにかくヒトを回してさえいれば、売上は確保できます。

だからこそ、5年後・10年後を見据えた新たなビジネスモデルへの変革が必要なのです。経営者自身が危機感を持つのは当然のこと、それを従業員にも伝搬させて、企業全体として変革に取り組む姿勢を作る必要があります。(単純に危機感をあおるだけだと、転職者を増やすだけになりかねないので注意が必要です。)

2.ターゲット(市場)と自社の強みを明確にする

自社が勝負すべき(したい)ターゲット(市場)と、その市場における自社の強みを明確にしましょう。人材やノウハウなど自社の資産の棚卸を行い、他社にはない強みが何であるか、市場への提供価値は何であるかを明らかにします。従業員同士でディスカッションするのも効果的です。

これまで企業として存続してきた以上、必ず何らかの強みがあるハズです。自社の強みが差別化要素であり、それが提供価値となります。逆に、その市場で発揮できる強みがないと、結局は価格勝負に陥ってしまいます。それでは従来のSESと何ら変わりません。

3.より高付加価値のサービスを開発する

自社の強みを生かした、より高付加価値のサービスを開発します。例えば、コンサルティングなど提案型のサービスを提供したり、要件定義などより上流のサービスを提供したり、専門性の高い業界・業務に特化するなどです。そのサービスは⾃社の強みを活かしたものであり、かつ、市場にニーズがあるものでなければなりません。

まったく新規のサービスである必要はなく、自社で提供している既存サービスの一部を、「これからはこれをサービスとして売っていくんだ」と明確にするのでもよいと思います。既存サービスであっても付加価値を明確化できれば、高単価で提供できるようになります。より高付加価値のサービスを適切な市場に高単価で提供することで、同じ従業員数でより多くの売上を達成でき、さらには利益も向上するのです。

4.顧客にサービスを届ける

せっかく開発したサービスも、お金を払ってくれる顧客に届けられないと意味がありません。見込み客にアプローチし、新規顧客を開拓するには、展示会への出展や自社セミナーの開催など、さまざまな手法が考えられます。どの手法を活用すべきかは、ターゲットとする顧客によって異なります。複数の手法を組み合わせることも効果的です。

ただ重要なのは、いずれの手法を活用するにしても「提供価値が何なのか」を強くアピールし、ターゲットに提供価値を明確に伝えることです。ターゲットに対するサービスの提供価値が明確になっていて、そこに市場があるのであれば、新規顧客の開拓はそれほど難しくないハズです。ターゲットに提供価値を伝える手法にもノウハウが必要だと思います。すべてを自社でこなそうとせずに、コンサルタントなど外部専門家の支援を仰ぐのもひとつの手だと思います。

まとめ

いかがでしたでしょうか。ちょっと抽象的だったかもしれません。「そんなことは言われなくてもわかっている」「それが簡単にできたら苦労しない」という声が聞こえてきそうですが、本当に危機感を持って取り組んでいる企業はどれくらいあるでしょうか。それぞれの企業の状況により、具体的に取り組む手段は変わってくると思いますが、まずは危機感を持って取り組むことが重要だと思います。

これまで「SESの限界」とその限界から抜け出す方法について述べてきましたが、SESのすべてが悪なのではありません。企業として成長しないSESをやり続けることが悪なのです。SESの課題を認識し、中長期的な経営志向を持ち、自社の強みと提供価値を明確にし、それを従業員と共有することで、企業として成長し続けていくことが可能となります。5年後・10年後を見据えた、企業として目指すべきビジョンを定義することが、重要なのではないでしょうか。

次回は、「AI時代に求められるSE像」について述べたいと思います。

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